【星の郷】地域コミュニティが希薄な時代に必要なもの
この記事は広報とうおん7月号特集を元に作成しています。
見奈良大橋を渡り、県道209号線を登っていくと上林地区がある。左右には棚田が広がり、水を張った田んぼには田植えをする農機具が映っている。観光地の風穴までの道のりは、ロードバイクに乗る人たちがトレーニングする風景をよく見かける。
上林地区の空は広い。「昼は青空。夜は星空が一面に広がります。寝転がって夜空を眺めるのが1日の楽しみ」。そう話すのは6月に1周年を迎えた“星の郷”のメンバーの一人、菅野眞理子さんだ。
菅野眞理子さん
星の郷は上林小学校の手前にある倉庫で毎月第2、4土曜日に「そうこ市」を開いている。
星の郷のメンバーは5人。「水の元そうめん流しのお手伝いに行っていた4人に声をかけたのが始まりです」と菅野さんは話す。
「そうめん流しの準備をしていた調理場を利用できる話が舞い込んできたんです。せっかくなら皆さんが気軽に立ち寄れる場所が作れないかと考え、できたのが今の“そうこ市”です」
そうめん流しが感染症対策でできなくなり、悲しむ声は多い。星の郷が使う調理場は、そうこ市を開く場所の裏にあり、12畳ほどの小さな空間。オープン前日から仕込みを行い、数種類のお弁当やパン、ケーキなどを調理する。
「どこもそうだと思いますが、上林地区も一人暮らしの高齢者が多いです。食事を作るのも辛くなってくると思うので、少しでも楽ができるようにお弁当などを販売しています。月2回だけでもご近所の方が助かればいいかな」
海老の殻を剥き、昆布から出汁をとって、大豆を炒る。水の元そうめん流しでも評判だった柏餅もあんこから練っていく。
「できるだけ自然の素材を使って優しい味付けにしています。高齢者の方が多いので」
炊き込みご飯、稲荷寿司、ちらし寿司、炊き込みご飯弁当、稲荷弁当、塩サバ弁当など種類は豊富だ。5人の得意料理を活かして、パン、蒸しパン、マフィンなども並べる。季節によって、おはぎや桜餅もあるそうだ。
星の郷の取り組みは、地元も後押しする。上林土地改良区八木利文理事長は「上林地区は風穴や皿ヶ嶺登山口があり、観光地としてもポテンシャルを秘めています。星の郷の取り組みは、上林地区だけでなく、地区以外から来る皆さんとの交流拠点作りにもなるものです。星の郷をこれからも続けていただいて、また新しい風が地域に吹くことを願っています」と期待を込める。
ノボリや商品の陳列棚は、応援してくれる上林の人が作ってくれた。“上林星の郷”。金色に輝く手書き文字を記したノボリが、上林の爽やかな風になびいていた。
星の郷の名称は5人で決めた。「上林から見える綺麗な星空はみんなの宝物。郷の文字は故郷を思い起こすようこだわりました」と菅野さんは笑う。月2回のオープンで、そうこ市の売り上げは1日2万円いけばいい方だという。それでもオープン時間の前には心待ちにしている人が列をつくる。
「待ってくれている人がいるのはやりがいになりますね。これから暑くなるので、売上で調理場に空調をつけようと計画しています。できる範囲で少しずつですけれど」
◇
オープン日、そうこ市には2週間ぶりの開店を懐かしむ声が広がった。
「久しぶりですね。元気でしたか?」
「ありがとうございました!またお待ちしていますね」
確かに人口は減少した。インターネットも普及した。それでもここには感謝の言葉があり、周りの人を気遣う思いやりがある。
人とのつながりを築くのは、そんな小さくても大事な気持ちなのかもしれない。
<<5人にインタビューしました>>
佃さよ子さん(71)
自慢の炊き込みご飯はみんなで力を合わせて作っています。ガス釜で一度にたくさん作るから美味しいのかな?入っているのは椎茸、にんじん、ごぼう、松山あげ、鶏肉。野菜は上林で採れたものを使っています。そうこ市には季節の野菜もでます。
体に気をつけて頑張りたいですね。アンパンが好きってよく言ってくれる。輝子さんが作りよる柏餅で使っているあんこが入ってます。地元の皆さんも協力してくれて、みんな助けてくれるから続けられたんかなと思う。もう歳やからね(笑)
藤原 泉さん(46)
力仕事を任されています。一番若いので(笑)。あとは会計と蒸しパン作り。蒸しパンにのせる具材は上林のサツマイモや季節で採れる食材。輝子さんのあんこを使うこともあります。取り組みを知って手伝ってくれる人がいればまたメニューも増やせて楽しくなるので、メンバー募集中です。
全部売り切れた時はやってよかったなと思います。1年やってみて大変なこともあるけれど、みんなが喜んでくれています。みんな月に2回のオープンを心待ちにしてくれているのがやりがいかな。
八木 晴子さん(71)
お弁当をメインで担当しています。今日のおかずは塩サバ、煮卵、マカロニサラダ。味付けにはこだわっているかな。煮卵の出汁も天然のもので、お年寄りの体に優しいものを使っています。
オススメ商品は、全部です(笑)。すぐ売り切れるのが嬉しいですね。お弁当で使うお米も上林で生産されたもの。おいしいですよ。
続けてこれたのは、やってて楽しいからが一番かな。ワイワイ言いながら楽しくやっています。来てくれる人とも世間話ができるのが良いですね。
菅野眞理子さん
元々パンやケーキを作るのが好きでした。上林地区は若い人が少なくなってきて、同じように地域の活気も少なくなっています。でも登山やロードバイクのために下から登ってくる人も増えているので、そんな交流も生まれたらいいなと思っています。少しずつですが活動を知ってくれる人も増えてきて、お昼までに売り切れる日もあります。
歩いてくる近所の皆さんが声を掛け合う姿を見ると「やってよかったな」って思います。インスタグラムも始めたので、よかったらフォローしてください。
菅能 輝子さん(76)
アンパンや柏餅に入れるあんこを作っています。あんこ作りの秘訣はよく練ること。柔らかすぎず、ちょうどいい硬さにするのがコツで、ゆっくり練っていきます。そうめん流しでも販売していたもので、作り続けてもう長いかなあ。あんこが自慢の桜餅。ぜひ食べてほしいです。
(他のメンバーに聞きました)菅能さんはよく笑って、ムードメーカーです。星の郷が明るくなるし、どこにいても笑い声がよう聞こえるよ。レシピはあるけど、このあんこの味は菅能さんにしか出せんね。